上司先輩ときどき恋人

キス

あっ、しまった。
 また打ち間違った。

 

 真湖(まこ)はパソコンの画面を確認する。

 

 緊張しているせいだろうか。
 さっきから、何度も打ち間違っていた。

 

 落ち着けー、と大きく息を吸って吐いていると、冷たい視線を感じた。

 

 ちょうど真横に五嶋(ごとう)課長の席がある。

 

 総務の課長や部長の席は全体を見渡せるように置いてあるので、配置的に、雅喜が顔を上げると、真湖が雅喜の視界のど真ん中に入ることになる。

 

 先週、堀田先輩が寿退社したので、デスクの配置が変わり、此処に来てしまったのだが――。

 

 怖いよう、と思いながら、真湖はキーボードを叩いていた。

 

 五嶋雅喜(まさき)課長は、開発部門に居たとき、一発当てたらしく、あの若さで課長なのだが。

 

 それだけの切れ者にありがちな感じで、他人にもおのれにも容赦ない人なので、出来るだけ近づきたくないと思っていた。
端正な顔に、あの細い銀縁の眼鏡が知的で素敵だと騒ぐ女子社員も多いが、話しかける勇気のある人間は居ないようだった。

 

 確かに怖い。

 

 なのに、なんでだろう。

 

 酔っていたので、記憶は曖昧なのだが。

 

 その先輩の寿退社の祝いのとき、カラオケに行って、雅喜の隣になった。

 

 最初は今と同じように緊張していたのだが、段々酒も入ってきて、司会進行をしていた同じ課の男の子が、盛り上げるのが異様にうまくて、テンションが高くなっていた。

 

 お手洗いに行って戻ってきたとき、ちょうど同じように戻ってきていた雅喜と一緒になって。

 

 何故だかわからないが、壁の絵を見て、話し込み、結構盛り上がった。

 

 あ、初めて、この人の笑った顔を見た、と思ったのは覚えている。
で、どういう間違いなのか。

 

 帰りに駅まで歩く道。
 気がついたら、自分と課長しか居なくて。

 

 あまり人気のない細い通りで、線路沿いの金網に課長が手をかけて。

 

 なんだかわからないが、キスしていた。

 

 でも、翌日からはいつも通りの雅喜だったので、夢だったのかな、とも思ったのだが。

 

 そのとき、後ろ頭に当たった金網の冷たさも、雅喜の唇の温かさも、全部覚えているので。

 

 夢じゃない可能性が高いのだが 追求するのが怖いし、したくない。

 

 まあ、本当だったとしても、課長もなにかの弾みだったんだろう。

 

 そう思うことにしていた。


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