ひやっ

ひやっ

 

「沢田。
 ……沢田っ!」

 

「は?
 ああ、はいっ」
と雅喜に呼ばれていたことに気づき、立ち上がる。

 

 雅喜はひとつ溜息をつき、ボールペンの背で、真湖の後ろを指差した。

 

「ああっ。
 監査役っ」

 

 人の良いおじいちゃんという印象の監査役が、何故か自分でコピーを取ろうとしている。

 

「私がやりますっ」

 

「ああ、いや、いいんだよ。
 二、三枚だけだから、自分でやろうかと思って」

 

「いえっ。
 わたくしがっ」
と言ったのだが、一枚目で、トナーがなくなってしまった。
 何故か、側に置いてあるはずの予備のトナーがない。

 

 それに気づいた雅喜が真湖を見据えて言う。

 

「沢田、今すぐ取って来い。
 二分以内だ」

 

 ええっ!?
 トナー、地下なんですけどっ。

 

「……早く行け」
とあの眼光鋭い目で脅され、はいっ、と走って行った。

 

 真湖はエレベーターの扉が開くのを待つのももどかしく、地下の備品室に飛び込み、トナーを探した。

 

 うわっ、何処だろ。

 

 今まで、辞めた堀田さんの担当だったからな。

 

 場所がわからず探してたなんて言ったら、引き継ぎノートをちゃんと見てないからだ、と課長に激怒されそうだ、と思う。

 

「あ、あれだ。
 あの箱っ」

 

 よりにもよって、スチール棚の一番高い場所にある。

 

 脚立を持ってきて、上に上がった。

 

 背伸びをして、トナーの箱を引っ張ると、その上に更にもうひとつ、横置きに箱が置いてあったらしく、それが落ちてきた。

 

 顔面を直撃する。

 

 ひゃっ、と悲鳴を上げたときには、足はもう脚立を外れていた。


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