動じない

動じない

腰から硬い床に叩きつけられる。

 

 間抜けな体勢でひっくり返ったので、恥ずかしさから、すぐに起き上がろうとしたのだが、痛みでまったく動けなかった。

 

「いたたたた……」

 

「なにやってんだ、莫迦か」

 

 痛みに目がチカチカしながら見上げると、何故か雅喜が立っていた。

 

「み、見てたんなら、助けてください」

 

「いきなりあんな落ち方すると思わないだろうが」

 

 戸口に居た彼はやってきて、腰を押さえている真湖を見ていたが、
「仕方ないな」
と溜息をつく。

 

 真湖の身体の下に手を入れ、ひょいと抱き上げた。

 

 うわっと思ったのは、抱き上げられたからと、それにより、雅喜の顔が近くなったからだった。

 

 しかし、その雅喜の顔は、真湖とは違い、なにも動じていないように見えた。

 

「監査役のコピーは清水がシステム課のコピー機でやってるから」

 

「そ、そうですか。
 すみません……」
と言ったつもりだったが、痛みで声が少し途切れ途切れになる。

 

「病院行くか?」

 

「そこまででは……」

 

 そう言うと、雅喜は一階の健康管理室に連れていってくれた。

 

 ちょうど誰も居らず、
「少し寝とけ」
と言い、ベッドに下ろしてくれる。

 

「安田さんに行っておいてやるから」

 

 安田さんは、元看護師さんで、人事で健康管理を受け持っている。

 

「そこまでじゃないです。
 さっき、打ったときはすごかったけど」
「そうか。
 じゃあ、早めに戻ってこい。

 

 堀田が居なくなって、人手が足りない」

 

 そう言い、バサッと足許にたたんであった布団をかけてくれるが、いまいち優しさが感じられない。

 

 でも、さっき、抱き上げてくれたとき、寄りかかっていた課長の胸は、あのときしたキスみたいに、ちょっと温かかったな、と思った。

 

 行こうとして、雅喜は振り返り、
「少し寝るのなら、鍵をかけておけ」
と言う。

 

「は?」

 

「誰か入ってくるかもしれないだろ」

 

「あ、はい。
 わかりました」

 

 なんだかわからないが、頷く。


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