溜息

溜息

 だが、行ったはずの雅喜がすぐに戸を開けて戻ってきた。

 

「お前、適当に返事をするな。
 動けないんだから、鍵、かけられないだろ」

 

「はは。
 すみません。

 

 大丈夫ですよ。
 痛くて寝られませんから」

 

 そう答えながら、雅喜ほどの人がすぐにそのことに思い当たらなかったのが不思議だった。

 

 珍しいこともあるもんだ、と思いながら、少し笑って目を閉じる。

 

 そのうち、痛みは和らいできて、眠ってしまった。

 

 目を覚ますと、何故か雅喜が居た。

 

 側に立ち、見下ろしている。

 

「起きたのか」
と言う。

 

「あ、はい。
 すみません。

 

 寝ちゃってました」

 

 雅喜がそこで呆れたように溜息をつき、
「安田さんが来てくれたみたいなんだが、お前が爆睡してたから、もう痛くないんだろうと思って、声はかけなかったと言ってたぞ」
と言う。

 

「す、すみません。
 よろしくお伝えください。

 

 じゃ、なくて、よろしく言っておきます」
と言うと、うん、と頷く。
ところで、この人、なんで、此処に居るんだ、と思っていたが、何故か帰らない。

 

「課長。
 どうしたんですか。

 

 まさか、自分が言いつけたせいで、私が怪我をしたので、責任感じてるとか?」
と言うと、

 

「莫迦か。
 脚立から落ちたのは、お前の責任だ」
と言われる。

 

 うう。
 そうですよね。

 

 相変わらず、バッサリ袈裟懸けに斬るような口調だ。

 

「そんなんじゃない」
と言いながら、雅喜は何故かベッドに腰掛け、溜息をつく。

 

「どうしたんですか?」
と言うと、

 

「いや、自分でもよくわからない」
と言い出した。


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