デリカシーに欠ける人

デリカシーに欠ける人

「なんだかわからないですけど、話してみてください。
 私でもお力になれることがあるかもしれないじゃないですか」

 

「あるわけないだろう」

 

 いや……まあ、そうなんですけど。

 

 喧嘩売るだけなら、帰って、と思っていると、雅喜はまた口を開いた。

 

「お前、この間……」
と言われ、どきりとする。

 

「珍しく俺に話しかけてきて、結構無礼な口をきいてたろう」
といっそ、一生知りたくなかった事実を教えてくれる。

 

 ひいっ。
 酒の力って怖い。

 

 言ってしまったことも怖いが、まるきり覚えていないことも怖かった。
「お前はいつも、俺以外の奴とは楽しそうに話しているが、俺を前にすると、いつも、釣り上げられた魚みたいに動かなくなるじゃないか」

 

「……それ、釣り上げられた魚じゃなくて、釣り上げられて死んだ魚ですよね?」

 

 釣り上げた直後は激しく動いてるだろうが、と思った。

 

 それにしても、女の子を例えるのに、他にいい例えはなかったのだろうか。

 

 やはりデリカシーに欠ける人だ。

 

 それにしても――。

 

「課長、釣りとかするんですか?」

 

「しちゃ悪いのか」

 

 たまに大学のときの友達と船で出るという雅喜に、
「課長、お友達居たんですか!」
と言うと、

 

「殺すぞ、お前……」
と言われる。

 

 いや、その目つきで言われると、本当に殺されそうなんですけど……。
「すみません。
 課長は切れ者で、その年で課長で。

 

 なんだか自分たちとは違う。
 すごい遠い存在だと思っていたので」

 

 そう言うと、
「俺は別に課長になんてなりたくなかった」
 あのまま、開発に居たかったんだ、と言う。

 

「でも、社長たちが、いずれ、幹部になるようにと総務の課長にしてくれたんじゃないですか?」

 

「そうなんだろうが、余計なお世話だ」

 

 思わず笑うと、
「なんだ?」
とこちらを見る。

 

「いえ、初めて課長が、自分とあまり年の変わらない男の人に見えたので」
と言うと、小さく、……莫迦か、と言って、目をそらす。


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