俺の彼女

俺の彼女

『実はいつも使うネットの旅行会社からメールが来たんだ。
 宿泊する宿の確認メールだった』

 

「あれ?
 課長、何処か旅行に行かれるんですか?」

 

 リフレッシュ休暇はまだ取る予定になかったと思うけど、と思っていると、
『行くらしいぞ、お前と』
と言ってくる。

 

「……はい?」

 

『何故だかわからないが、お前と旅行に行くらしい。
 一泊で』

 

「は?」

 

『そう書いてある』
と決定事項のように言ってくる。

 

「いやいやいや。
 ちょっと待ってくださいよ、なんですか、それ」

 

 だって、そう書いてあるんだ、と雅喜は繰り返す。
自分でもよくわからないようだった。

 

『誰かの悪戯かと思ったんだが、俺のIDもパスワードも知るわけもないし』

 

「彼女にでも盗み見られたんじゃないですか?」

 

『なんで俺の彼女がお前との旅行を計画してくれるんだよ』
ともっともなことを言ってくる。

 

 そして、俺の彼女、という言い方にどきりとしてしまった。

 

 あまりにもすんなりとその言葉が出て来たので、本当に居るのかな、と思ったのだ。

 

 まあ、あれだけの男前だし、エリートだし、居ない方がおかしいのだが。

 

 ……彼女の前では少しは優しいのだろうかな、とちょっと想像がつかず思っていると、雅喜は言った。

 

『だが、少し思い当たる節がある』

 

「え?」
『この申し込みの日付だが、あの飲み会の日なんだよ。

 

 それに、この場所。

 

 お前、壁にかけてあったミュシャっぽい絵を見て、なんだかんだ言ってたろう。

 

 この宿があるの、今、ミュシャが来てる美術館のある街なんだ』

 

 わー……と思わず、言ってしまっていた。

 

 後悔とともに。

 

「そういえば、行きたいとか言いましたね、私」
と言うと、覚えてるのか、と言ってくる。

 

 雅喜はなにも覚えていないようだった。

 

「いや、うっすらとですけどね」

 

 それで即行、その場で頼むとか、どうなんだ、私たち、と思っていた。

 

「私、二度と酒は?みません」

 

『それはいいが、これ、この土日だぞ』


ホーム RSS購読 サイトマップ