算段

算段

 

 

『いや、無理です、課長』
と言う真湖の言葉を聞いた雅喜は、まあ、そうだろうな、と思っていた。

 

 真湖はあの飲み会の夜の前も後も自分を避けている。

 

 前はたぶん、怖くて。
 後はたぶん、気まずくて。

 

 だから、断ってくるだろうと思っていた。

 

 どうするかな。
 行ってみたいのは本当だし、此処はキャンセルして、別の宿を取るか。

 

 それか、このまま、此処に一人で泊まるか、と算段していた。

 

 どちらにせよ、自分のスマホからパスワードも入れて頼んでいるということは、最終的には自分が決断したのだろう。

 

 キャンセル料も真湖に払ってもらうつもりはなかった。

 

 だから、
『ボーナス一括でお願いしますっ』
という真湖の言葉が返ってきたとき、幻聴かと思った。
大丈夫か?
 こいつ、また酔ってないか? と思いながらも、
「……わかった」
と言っていた。

 

 細かく追求して、もめるのも嫌だ。

 

 友人たちは、絵には興味ないし。

 

 真湖だったら、旅行に連れて行っても、ごちゃごちゃうるさいこともないだろうと思ったのだ。

 

 いや、少々やかましくはあるのだが、鬱陶しくはないというか。

 

 こざっぱりした性格をしているので、男だったら、いい友達になれたかもな、という感じだ。

 

 なのに、なんで、あそこであんなことをしてしまったのだろう。

 

 真湖には言っていないが、あの線路沿いでのキスは覚えていた。

 

 ……っていうか、お前も逃げろよ、と思いながら、雅喜はスマホをソファに放った。
テレビはまだ一人で笑い声を上げている。

 

 そういえば、今、沢田の方からも同じ音が聞こえていたな、と思いながら、ソファにすがり、それを見た。


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